なかった。
次の日三人は表へ出て遠く濃い色を流す海を眺めた。松の幹から脂《やに》の出る空気を吸った。冬の日は短い空を赤裸々に横切っておとなしく西へ落ちた。落ちる時、低い雲を黄に赤に竈《かまど》の火の色に染めて行った。風は夜に入っても起らなかった。ただ時々松を鳴らして過ぎた。暖かい好い日が宗助の泊っている三日の間続いた。
宗助はもっと遊んで行きたいと云った。御米はもっと遊んで行きましょうと云った。安井は宗助が遊びに来たから好い天気になったんだろうと云った。三人はまた行李《こうり》と鞄《かばん》を携《たずさ》えて京都へ帰った。冬は何事もなく北風を寒い国へ吹きやった。山の上を明らかにした斑《まだら》な雪がしだいに落ちて、後から青い色が一度に芽を吹いた。
宗助は当時を憶《おも》い出すたびに、自然の進行がそこではたりと留まって、自分も御米もたちまち化石してしまったら、かえって苦はなかったろうと思った。事は冬の下から春が頭を擡《もた》げる時分に始まって、散り尽した桜の花が若葉に色を易《か》える頃に終った。すべてが生死《しょうし》の戦《たたかい》であった。青竹を炙《あぶ》って油を絞《しぼ》るほ
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