或時宗助が例のごとく安井を尋ねたら、安井は留守で、御米ばかり淋《さみ》しい秋の中に取り残されたように一人|坐《すわ》っていた。宗助は淋《さむ》しいでしょうと云って、つい座敷に上り込んで、一つ火鉢《ひばち》の両側に手を翳《かざ》しながら、思ったより長話をして帰った。或時宗助がぽかんとして、下宿の机に倚《よ》りかかったまま、珍らしく時間の使い方に困っていると、ふと御米がやって来た。そこまで買物に出たから、ついでに寄ったんだとか云って、宗助の薦《すす》める通り、茶を飲んだり菓子を食べたり、緩《ゆっ》くり寛《くつ》ろいだ話をして帰った。
こんな事が重なって行くうちに、木《こ》の葉《は》がいつの間《ま》にか落ちてしまった。そうして高い山の頂《いただき》が、ある朝真白に見えた。吹《ふ》き曝《さら》しの河原《かわら》が白くなって、橋を渡る人の影が細く動いた。その年の京都の冬は、音を立てずに肌を透《とお》す陰忍《いんにん》な質《たち》のものであった。安井はこの悪性の寒気《かんき》にあてられて、苛《ひど》いインフルエンザに罹《かか》った。熱が普通の風邪《かぜ》よりもよほど高かったので、始は御米も驚ろい
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