ち》へ帰ったからである。
 けれども彼の頭にはその日の印象が長く残っていた。家へ帰って、湯に入って、灯火《ともしび》の前に坐った後《のち》にも、折々色の着いた平たい画《え》として、安井と御米の姿が眼先にちらついた。それのみか床《とこ》に入《い》ってからは、妹《いもと》だと云って紹介された御米が、果して本当の妹であろうかと考え始めた。安井に問いつめない限り、この疑《うたがい》の解決は容易でなかったけれども、臆断《おくだん》はすぐついた。宗助はこの臆断を許すべき余地が、安井と御米の間に充分存在し得るだろうぐらいに考えて、寝ながらおかしく思った。しかもその臆断に、腹の中で※[#「彳+低のつくり」、第3水準1−84−31]徊《ていかい》する事の馬鹿馬鹿しいのに気がついて、消し忘れた洋灯《ランプ》をようやくふっと吹き消した。
 こう云う記憶の、しだいに沈んで痕迹《あとかた》もなくなるまで、御互の顔を見ずに過すほど、宗助と安井とは疎遠ではなかった。二人は毎日学校で出合うばかりでなく、依然として夏休み前の通り往来を続けていた。けれども宗助が行くたびに、御米は必ず挨拶《あいさつ》に出るとは限らなかった
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