め返しては、この淡泊《たんぱく》な挨拶《あいさつ》が、いかに自分らの歴史を濃く彩《いろど》ったかを、胸の中であくまで味わいつつ、平凡な出来事を重大に変化させる運命の力を恐ろしがった。
 宗助は二人で門の前に佇《たたず》んでいる時、彼らの影が折れ曲って、半分ばかり土塀《どべい》に映ったのを記憶していた。御米の影が蝙蝠傘《こうもりがさ》で遮《さえ》ぎられて、頭の代りに不規則な傘の形が壁に落ちたのを記憶していた。少し傾むきかけた初秋《はつあき》の日が、じりじり二人を照り付けたのを記憶していた。御米は傘を差したまま、それほど涼しくもない柳の下に寄った。宗助は白い筋を縁《ふち》に取った紫《むらさき》の傘の色と、まだ褪《さ》め切らない柳の葉の色を、一歩|遠退《とおの》いて眺め合わした事を記憶していた。
 今考えるとすべてが明らかであった。したがって何らの奇もなかった。二人は土塀の影から再び現われた安井を待ち合わして、町の方へ歩いた。歩く時、男同志は肩を並べた。御米は草履《ぞうり》を引いて後《あと》に落ちた。話も多くは男だけで受持った。それも長くはなかった。途中まで来て宗助は一人分れて、自分の家《う
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