一言《いちごん》も口にしなかった。宗助も聞く勇気に乏しかった。その日はそれなり別れた。
次の日二人が顔を合したとき、宗助はやはり女の事を胸の中に記憶していたが、口へ出しては一言《ひとこと》も語らなかった。安井も何気ない風をしていた。懇意な若い青年が心易立《こころやすだて》に話し合う遠慮のない題目は、これまで二人の間に何度となく交換されたにもかかわらず、安井はここへ来て、息詰ったごとくに見えた。宗助もそこを無理にこじ開けるほどの強い好奇心は有《も》たなかった。したがって女は二人の意識の間に挟《はさ》まりながら、つい話頭に上らないで、また一週間ばかり過ぎた。
その日曜に彼はまた安井を訪《と》うた。それは二人の関係している或会について用事が起ったためで、女とは全く縁故のない動機から出た淡泊《たんぱく》な訪問であった。けれども座敷へ上がって、同じ所へ坐らせられて、垣根に沿うた小さな梅の木を見ると、この前来た時の事が明らかに思い出された。その日も座敷の外は、しんとして静《しずか》であった。宗助はその静かなうちに忍んでいる若い女の影を想像しない訳に行かなかった。同時にその若い女はこの前と同じよ
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