気がしただけであった。彼はこの暑い休暇中にも卒業後の自分に対する謀《はかりごと》を忽《ゆる》がせにはしなかった。彼は大学を出てから、官途につこうか、または実業に従おうか、それすら、まだ判然《はっきり》と心にきめていなかったにかかわらず、どちらの方面でも構わず、今のうちから、進めるだけ進んでおく方が利益だと心づいた。彼は直接父の紹介を得た。父を通して間接にその知人の紹介を得た。そうして自分の将来を影響し得るような人を物色して、二三の訪問を試みた。彼らのあるものは、避暑という名義の下《もと》に、すでに東京を離れていた。あるものは不在であった。またあるものは多忙のため時を期して、勤務先で会おうと云った。宗助は日のまだ高くならない七時頃に、昇降器《エレヴェーター》で煉瓦造《れんがづくり》の三階へ案内されて、そこの応接間に、もう七八人も自分と同じように、同じ人を待っている光景を見て驚ろいた事もあった。彼はこうして新らしい所へ行って、新らしい物に接するのが、用向の成否に関わらず、今まで眼に付かずに過ぎた活《い》きた世界の断片を頭へ詰め込むような気がして何となく愉快であった。
 父の云いつけで、毎年
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