と云う一口話をやはり友達から聞いた通り繰り返した。狭い京都に飽きた宗助は、単調な生活を破る色彩として、そう云う出来事も百年に一度ぐらいは必要だろうとまで思った。
その時分の宗助の眼は、常に新らしい世界にばかり注《そそ》がれていた。だから自然がひととおり四季の色を見せてしまったあとでは、再び去年の記憶を呼び戻すために、花や紅葉《もみじ》を迎える必要がなくなった。強く烈《はげ》しい命に生きたと云う証券を飽《あ》くまで握りたかった彼には、活《い》きた現在と、これから生れようとする未来が、当面の問題であったけれども、消えかかる過去は、夢同様に価《あたい》の乏しい幻影に過ぎなかった。彼は多くの剥《は》げかかった社《やしろ》と、寂果《さびは》てた寺を見尽して、色の褪《さ》めた歴史の上に、黒い頭を振り向ける勇気を失いかけた。寝耄《ねぼ》けた昔に※[#「彳+低のつくり」、第3水準1−84−31]徊《ていかい》するほど、彼の気分は枯れていなかったのである。
学年の終りに宗助と安井とは再会を約して手を分った。安井はひとまず郷里の福井へ帰って、それから横浜へ行くつもりだから、もしその時には手紙を出して通
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