り返して幾本となく並ぶ風情《ふぜい》を楽しんだ。ある時は大悲閣《だいひかく》へ登って、即非《そくひ》の額の下に仰向《あおむ》きながら、谷底の流を下《くだ》る櫓《ろ》の音を聞いた。その音が雁《かり》の鳴声によく似ているのを二人とも面白がった。ある時は、平八茶屋《へいはちぢゃや》まで出掛けて行って、そこに一日寝ていた。そうして不味《まず》い河魚の串《くし》に刺したのを、かみさんに焼かして酒を呑《の》んだ。そのかみさんは、手拭《てぬぐい》を被《かぶ》って、紺《こん》の立付《たっつけ》みたようなものを穿《は》いていた。
 宗助はこんな新らしい刺戟《しげき》の下《もと》に、しばらくは慾求の満足を得た。けれどもひととおり古い都の臭《におい》を嗅《か》いで歩くうちに、すべてがやがて、平板に見えだして来た。その時彼は美くしい山の色と清い水の色が、最初ほど鮮明な影を自分の頭に宿さないのを物足らず思い始めた。彼は暖かな若い血を抱《いだ》いて、その熱《ほて》りを冷《さま》す深い緑に逢えなくなった。そうかといって、この情熱を焚《や》き尽すほどの烈《はげ》しい活動には無論出会わなかった。彼の血は高い脈を打って、
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