》が丈夫だから結構だ」とよくどこかに故障の起る安井が羨《うらや》ましがった。この安井というのは国は越前《えちぜん》だが、長く横浜にいたので、言葉や様子は毫《ごう》も東京ものと異なる点がなかった。着物道楽で、髪の毛を長くして真中から分ける癖があった。高等学校は違っていたけれども、講義のときよく隣合せに並んで、時々聞き損《そく》なった所などを後から質問するので、口を利《き》き出したのが元になって、つい懇意になった。それが学年の始《はじま》りだったので、京都へ来て日のまだ浅い宗助にはだいぶんの便宜《べんぎ》であった。彼は安井の案内で新らしい土地の印象を酒のごとく吸い込んだ。二人は毎晩のように三条とか四条とかいう賑《にぎ》やかな町を歩いた。時によると京極《きょうごく》も通り抜けた。橋の真中に立って鴨川《かもがわ》の水を眺めた。東山《ひがしやま》の上に出る静かな月を見た。そうして京都の月は東京の月よりも丸くて大きいように感じた。町や人に厭《あ》きたときは、土曜と日曜を利用して遠い郊外に出た。宗助は至る所の大竹藪《おおたけやぶ》に緑の籠《こも》る深い姿を喜んだ。松の幹の染めたように赤いのが、日を照
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