う》が書いてあった。位牌の主《ぬし》は戒名を持っていた。けれども俗名《ぞくみょう》は両親《ふたおや》といえども知らなかった。宗助は最初それを茶の間の箪笥《たんす》の上へ載《の》せて、役所から帰ると絶えず線香を焚《た》いた。その香《におい》が六畳に寝ている御米の鼻に時々|通《かよ》った。彼女の官能は当時それほどに鋭どくなっていたのである。しばらくしてから、宗助は何を考えたか、小さい位牌《いはい》を箪笥《たんす》の抽出《ひきだし》の底へしまってしまった。そこには福岡で亡くなった小供の位牌と、東京で死んだ父の位牌が別々に綿で包《くる》んで丁寧《ていねい》に入れてあった。東京の家を畳むとき宗助は先祖の位牌を一つ残らず携《たずさ》えて、諸所を漂泊《ひょうはく》するの煩《わずら》わしさに堪《た》えなかったので、新らしい父の分だけを鞄《かばん》の中に収めて、その他はことごとく寺へ預けておいたのである。
御米は宗助のするすべてを寝ながら見たり聞いたりしていた。そうして布団《ふとん》の上に仰向《あおむけ》になったまま、この二つの小《ち》さい位牌を、眼に見えない因果《いんが》の糸を長く引いて互に結びつけ
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