して行ったのである。よし産婆の云う事に間違があって、腹の児《こ》の発育が今までのうちにどこかで止っていたにしたところで、それが直《すぐ》取り出されない以上、母体は今日《こんにち》まで平気に持ち応《こた》える訳がなかった。そこをだんだん調べて見て、宗助は自分がいまだかつて聞いた事のない事実を発見した時に、思わず恐れ驚ろいた。胎児は出る間際まで健康であったのである。けれども臍帯纏絡《さいたいてんらく》と云って、俗に云う胞《えな》を頸《くび》へ捲《ま》きつけていた。こう云う異常の場合には、固《もと》より産婆の腕で切り抜けるよりほかにしようのないもので、経験のある婆さんなら、取り上げる時に、旨《うま》く頸に掛かった胞を外《はず》して引き出すはずであった。宗助の頼んだ産婆もかなり年を取っているだけに、このくらいのことは心得ていた。しかし胎児の頸を絡《から》んでいた臍帯は、時たまあるごとく一重《ひとえ》ではなかった。二重《ふたえ》に細い咽喉《のど》を巻いている胞を、あの細い所を通す時に外し損《そく》なったので、小児《こども》はぐっと気管を絞《し》められて窒息してしまったのである。
罪は産婆にもあ
前へ
次へ
全332ページ中196ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング