決しかねた。
御米はいつになく逆上《のぼ》せて、耳まで赤くしていた。頭が熱いかと聞くと苦しそうに熱いと答えた。宗助は大きな声を出して清に氷嚢《こおりぶくろ》へ冷たい水を入れて来いと命じた。氷嚢があいにく無かったので、清は朝の通り金盥《かなだらい》に手拭《てぬぐい》を浸《つ》けて持って来た。清が頭を冷やしているうち、宗助はやはり精いっぱい肩を抑えていた。時々少しはいいかと聞いても、御米は微《かす》かに苦しいと答えるだけであった。宗助は全く心細くなった。思い切って、自分で馳《か》け出して医者を迎《むかい》に行こうとしたが、後《あと》が心配で一足も表へ出る気にはなれなかった。
「清、御前急いで通りへ行って、氷嚢を買って医者を呼んで来い。まだ早いから起きてるだろう」
清はすぐ立って茶の間の時計を見て、
「九時十五分でございます」と云いながら、それなり勝手口へ回って、ごそごそ下駄を探《さが》しているところへ、旨《うま》い具合に外から小六が帰って来た。例の通り兄には挨拶《あいさつ》もしないで、自分の部屋へ這入《はい》ろうとするのを、宗助はおい小六と烈《はげ》しく呼び止めた。小六は茶の間で少し躊
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