》をさせて、それを小六に薦《すす》めさしたまま、自分はやはり床を離れずにいた。そうして、平生夫のする柔《やわら》かい括枕《くくりまくら》を持って来て貰って、堅いのと取り替えた。御米は髪の損《こわ》れるのを、女らしく苦にする勇気にさえ乏しかったのである。
小六は六畳から出て来て、ちょっと襖《ふすま》を開けて、御米の姿を覗《のぞ》き込んだが、御米が半《なか》ば床の間の方を向いて、眼を塞《ふさ》いでいたので、寝ついたとでも思ったものか、一言《ひとこと》の口も利《き》かずに、またそっと襖を閉めた。そうして、たった一人大きな食卓を専領して、始めからさらさらと茶漬を掻《か》き込む音をさせた。
二時頃になって、御米はやっとの事、とろとろと眠ったが、眼が覚《さ》めたら額を捲《ま》いた濡れ手拭がほとんど乾くくらい暖かになっていた。その代り頭の方は少し楽になった。ただ肩から背筋《せすじ》へ掛けて、全体に重苦しいような感じが新らしく加わった。御米は何でも精をつけなくては毒だという考から、一人で起きて遅い午飯《ひるはん》を軽く食べた。
「御気分はいかがでございます」と清が御給仕をしながら、しきりに聞いた。
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