さ》えて痛むよりは、かえって凌《しの》ぎやすかった。とかくして夫を送り出すまでは、しばらくしたらまたいつものように折り合って来る事と思って我慢していた。ところが宗助がいなくなって、自分の義務に一段落が着いたという気の弛《ゆる》みが出ると等しく、濁った天気がそろそろ御米の頭を攻め始めた。空を見ると凍《こお》っているようであるし、家《うち》の中にいると、陰気な障子《しょうじ》の紙を透《とお》して、寒さが浸《し》み込んで来るかと思われるくらいだのに、御米の頭はしきりに熱《ほて》って来た。仕方がないから、今朝あげた蒲団《ふとん》をまた出して来て、座敷へ延べたまま横になった。それでも堪《た》えられないので、清に濡手拭《ぬれてぬぐい》を絞《しぼ》らして頭へ乗せた。それが直《じき》生温《なまぬる》くなるので、枕元に金盥《かなだらい》を取り寄せて時々|絞《しぼ》り易《か》えた。
午《ひる》までこんな姑息手段《こそくしゅだん》で断えず額を冷やして見たが、いっこうはかばかしい験《げん》もないので、御米は小六のために、わざわざ起きて、いっしょに食事をする根気もなかった。清《きよ》にいいつけて膳立《ぜんだて
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