から大きな眼が四つほどすでに宗助を覗《のぞ》いていた。火鉢を持って出ると、その後《あと》からまた違った顔が見えた。始めてのせいか、襖の開閉《あけたて》のたびに出る顔がことごとく違っていて、子供の数が何人あるか分らないように思われた。ようやく下女が退《さ》がりきりに退がると、今度は誰だか唐紙《からかみ》を一寸ほど細目に開けて、黒い光る眼だけをその間から出した。宗助も面白くなって、黙って手招ぎをして見た。すると唐紙をぴたりと閉《た》てて、向う側で三四人が声を合して笑い出した。
 やがて一人の女の子が、
「よう、御姉様またいつものように叔母さんごっこしましょうよ」と云い出した。すると姉らしいのが、
「ええ、今日は西洋の叔母さんごっこよ。東作さんは御父さまだからパパで、雪子さんは御母さまだからママって云うのよ。よくって」と説明した。その時また別の声で、
「おかしいわね。ママだって」と云って嬉《うれ》しそうに笑ったものがあった。
「私《わたし》それでもいつも御祖母《おばば》さまなのよ。御祖母さまの西洋の名がなくっちゃいけないわねえ。御祖母さまは何て云うの」と聞いたものもあった。
「御祖母さまはや
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