いるうちに、ほぼ関係が明暸《めいりょう》になったので、
「全体いくらで売ったのです」と聞いた。御米は返事をする前にちょっと夫の顔を見た。
 食事が終ると、小六はじきに六畳へ這入《はい》った。宗助はまた炬燵《こたつ》へ帰った。しばらくして御米も足を温《ぬく》めに来た。そうして次の土曜か日曜には坂井へ行って、一つ屏風を見て来たらいいだろうと云うような事を話し合った。
 次の日曜になると、宗助は例の通り一週に一返《いっぺん》の楽寝《らくね》を貪ぼったため、午前《ひるまえ》半日をとうとう空《くう》に潰《つぶ》してしまった。御米はまた頭が重いとか云って、火鉢《ひばち》の縁《ふち》に倚《よ》りかかって、何をするのも懶《ものう》そうに見えた。こんな時に六畳が空《あ》いていれば、朝からでも引込む場所があるのにと思うと、宗助は小六に六畳をあてがった事が、間接に御米の避難場を取り上げたと同じ結果に陥《おちい》るので、ことに済まないような気がした。
 心持が悪ければ、座敷へ床を敷いて寝たら好かろうと注意しても、御米は遠慮して容易に応じなかった。それではまた炬燵でも拵《こしら》えたらどうだ、自分も当るからと云
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