、大事に飾っておいた事やら話した末、
「まあ台所《だいどこ》で使う食卓《ちゃぶだい》か、たかだか新《あら》の鉄瓶《てつびん》ぐらいしか、あんな所じゃ買えたもんじゃありません」と云った。
そのうち二人は坂の上へ出た。坂井はそこを右へ曲る、宗助はそこを下へ下りなければならなかった。宗助はもう少しいっしょに歩いて、屏風《びょうぶ》の事を聞きたかったが、わざわざ回《まわ》り路《みち》をするのも変だと心づいて、それなり分れた。分れる時、
「近い中《うち》御邪魔に出てもようございますか」と聞くと、坂井は、
「どうぞ」と快よく答えた。
その日は風もなくひとしきり日も照ったが、家《うち》にいると底冷《そこびえ》のする寒さに襲《おそ》われるとか云って、御米はわざわざ置炬燵《おきごたつ》に宗助の着物を掛けて、それを座敷の真中に据《す》えて、夫の帰りを待ち受けていた。
この冬になって、昼のうち炬燵《こたつ》を拵《こし》らえたのは、その日が始めてであった。夜は疾《と》うから用いていたが、いつも六畳に置くだけであった。
「座敷の真中にそんなものを据えて、今日はどうしたんだい」
「でも、御客も何もないからい
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