やしまいかと思われるほど、小六から見ると、消極的な暮し方をしていた。
「こんな紙じゃ、またすぐ破けますね」と云いながら、小六は巻いた小口を一尺ほど日に透《す》かして、二三度力任せに鳴らした。
「そう? でも宅《うち》じゃ小供がないから、それほどでもなくってよ」と答えた御米は糊を含ました刷毛《はけ》を取ってとんとんとんと桟の上を渡した。
 二人は長く継《つ》いだ紙を双方から引き合って、なるべく垂《た》るみのできないように力《つと》めたが、小六が時々面倒臭そうな顔をすると、御米はつい遠慮が出て、好加減《いいかげん》に髪剃《かみそり》で小口を切り落してしまう事もあった。したがってでき上ったものには、所々のぶくぶくがだいぶ目についた。御米は情《なさけ》なさそうに、戸袋に立て懸《か》けた張り立ての障子を眺《なが》めた。そうして心の中《うち》で、相手が小六でなくって、夫であったならと思った。
「皺《しわ》が少しできたのね」
「どうせ僕の御手際《おてぎわ》じゃ旨《うま》く行かない」
「なに兄さんだって、そう御上手じゃなくってよ。それに兄さんはあなたよりよっぽど無精《ぶしょう》ね」
 小六は何にも答え
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