取り寄せて、とうとうその上へ宗助の尻を据《す》えさした。そうして今朝《けさ》早く来た刑事の話をし始めた。刑事の判定によると、賊は宵《よい》から邸内に忍び込んで、何でも物置かなぞに隠れていたに違ない。這入口《はいりくち》はやはり勝手である。燐寸《マッチ》を擦《す》って蝋燭《ろうそく》を点《とも》して、それを台所にあった小桶《こおけ》の中へ立てて、茶の間へ出たが、次の部屋には細君と子供が寝ているので、廊下伝いに主人の書斎へ来て、そこで仕事をしていると、この間生れた末の男の子が、乳を呑《の》む時刻が来たものか、眼を覚《さ》まして泣き出したため、賊は書斎の戸を開けて庭へ逃げたらしい。
「平常《いつも》のように犬がいると好かったんですがね。あいにく病気なので、四五日前病院へ入れてしまったもんですから」と主人は残念がった。宗助も、
「それは惜しい事でした」と答えた。すると主人はその犬の種《ブリード》やら血統やら、時々|猟《かり》に連れて行く事や、いろいろな事を話し始めた。
「猟《りょう》は好ですから。もっとも近来は神経痛で少し休んでいますが。何しろ秋口から冬へ掛けて鴫《しぎ》なぞを打ちに行くと、ど
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