ように生れついたもの、先は先のような運を持って世の中へ出て来たもの、両方共始から別種類の人間だから、ただ人間として生息する以外に、何の交渉も利害もないのだと考えるようになってきた。たまに世間話のついでとして、ありゃいったい何をしている人だぐらいは聞きもするが、それより先は、教えて貰う努力さえ出すのが面倒だった。御米にもこれと同じ傾きがあった。けれどもその夜《よ》は珍らしく、坂井の主人は四十|恰好《かっこう》の髯《ひげ》のない人であると云う事やら、ピヤノを弾くのは惣領《そうりょう》の娘で十二三になると云う事やら、またほかの家《うち》の小供が遊びに来ても、ブランコへ乗せてやらないと云う事やらを話した。
「なぜほかの家の子供はブランコへ乗せないんだい」
「つまり吝《けち》なんでしょう。早く悪くなるから」
 宗助は笑い出した。彼はそのくらい吝嗇《けち》な家主が、屋根が漏《も》ると云えば、すぐ瓦師《かわらし》を寄こしてくれる、垣が腐ったと訴えればすぐ植木屋に手を入れさしてくれるのは矛盾だと思ったのである。
 その晩宗助の夢には本多の植木鉢も坂井のブランコもなかった。彼は十時半頃床に入って、万象に
前へ 次へ
全332ページ中108ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング