弟《いとこ》」などになると、其上に又親父さんの青年に対する反抗的な感情が一篇の主意もしくは哲理として後の方に出ています。
 次にあなたの理解力に就いて一言其特色を述べたいと思います。あなたの頭の働らきは全く科学的でありながら、其|濃《こま》やかな点が、あなたの情緒の描写によく調和して、綿密によく行き渡っています。そうして不思議にもそれが普通のありふれた作物のように、くだくだしくならないのです。いくら微細な心的現象の解剖でも、又は外観からくる人間の精密な描写でも、決して干乾《ひから》びていません。必ず委曲要領をつくすのみならず、其所《そこ》にあなたの独得の一種の趣《おもむき》が漂《ただよ》っているのです。私の見る所によると其趣はあなたの観察が突飛に走らない程度で、場合々々に適当な新らしい刺戟《しげき》を読者に与え得るからだろうと思います。「霊岸島の自殺」や「船室」の前半の如きは、その方面のいい作例と見て差支《さしつかえ》ないでしょう。ことに前者に於て、ある男とある女の性的関係の階級等差が、あれ程細かく書いてありながら、些《ちっ》とも卑猥《ひわい》な心持を起させずに、ただ精緻《せいち》な観
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