木下杢太郎著『唐草表紙』序
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)貴方《あなた》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)五百八十|頁《ページ》
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 私は貴方《あなた》から送って下さった校正刷五百八十|頁《ページ》を今日|漸《ようや》く読み了《おわ》りました。漸くというと厭々《いやいや》読んだように聞こえるかも知れませんが、決してそんな訳ではないのです。多大の興味ばかりか、其興味に伴う利益をも受けながら、楽しく読み了ったのです。実をいうと私の都合もあり、又活字組込の関係もありして、長短十八篇の間を休み休み通り抜けたのは、批評を依頼した貴方にも御気の毒ですし、またそれを御約束した私にも多少の不便は出て来たに相違ありませんが、此陥欠を避ける手段は御互になかったのですから、それは双方で我慢する事にして、私の御作に対するざっとした考え丈《だけ》を申し上げます。
 まずあなたの特色として第一に私の眼に映ったのは、饒《ゆた》かな情緒を濃《こま》やかにしかも霧《きり》か霞《かすみ》のように、ぼうっと写し出す御手際《おてぎわ》です。何故《
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