んがさ》を忠弥に差し懸《か》けて見たりなんかして、まるで利口ぶった十五六の少年ぐらいな頭脳しかもっていない。だから、これらはまるで野蛮人の芸術である。子供がまま事に天下を取《と》り競《くら》をしているところを書いた脚本である。世間見ずの坊ちゃんの浅薄愚劣なる世界観を、さもさも大人ぶって表白した筋書である。こんなものを演ぜねばならぬ役者はさぞかし迷惑な事だろうと思う。あの芸は、あれより数十倍利用のできる芸である。
○油屋御こんなどもむやみに刀をすり更《か》えたり、手紙を奪い合ったり、まるで真面目《まじめ》な顔をして、いたずらをして見せると同じである。
○祐天《ゆうてん》なぞでも、あれだけの思いつきがあれば、もう少しハイカラにできる訳だ。不動の御利益《ごりやく》が蛮からなんじゃない。神が出ても仏が出てもいっこう差支《さしつかえ》ないが、たかが如是我聞《にょぜがもん》の一二句で、あれ程の人騒がせをやるのみならず、不動様まで騒がせるのは、開明の今日《こんにち》はなはだ穏かならぬ事と思う。あれじゃ不動様が安っぽくなるばかりだ。不動をあらたか[#「あらたか」に傍点]にしようと思ったら、もう少し深い
前へ 次へ
全7ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング