明治座の所感を虚子君に問れて
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)訥升《とっしょう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)不断|仮色《こわいろ》などを
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あらたか[#「あらたか」に傍点]
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○虚子に誘われて珍らしく明治座を見に行った。芝居というものには全く無知無識であるから、どんな印象を受けるか自分にもまるで分らなかった。虚子もそこが聞きたいので、わざわざ誘ったのである。もっとも幼少の頃は沢村田之助とか訥升《とっしょう》とかいう名をしばしば耳にした事を覚えている。それから猿若町《さるわかちょう》に芝居小屋がたくさんあったかのように、何となく夢ながら承知している。しかも、あとから聞くと訥升が贔屓《ひいき》だったという話であるから驚ろく。それはおおかた嘘《うそ》だろうと思う。物心がついてからは全く芝居には足を入れなかった。しかし自分の兄共は揃《そろい》も揃って芝居好で、家にいると不断|仮色《こわいろ》などを使っているから、自分はこの仮色を通して役者を知っていた。それから今
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