。下らん病気ばかりして」
叔母は津田の顔を見てにやりと笑った。近頃急に「今の若いものは」という言葉を、癖のように使い出した叔父の歴史を心得ている津田も笑い返した。よほど以前この叔父から惑病《わくびょう》は同源《どうげん》だの疾患は罪悪だのと、さも偉そうに云い聞かされた事を憶《おも》い出すと、それが病気に罹《かか》らない自分の自慢とも受け取れるので、なおのこと滑稽《こっけい》に感ぜられた。彼は薄笑いと共にまた小林の方を見た。小林はすぐ口を出した。けれども津田の予期とは全くの反対を云った。
「何今の若いものだって病気をしないものもあります。現に私《わたくし》なんか近頃ちっとも寝た事がありません。私考えるに、人間は金が無いと病気にゃ罹《かか》らないもんだろうと思います」
津田は馬鹿馬鹿しくなった。
「つまらない事をいうなよ」
「いえ全くだよ。現に君なんかがよく病気をするのは、するだけの余裕があるからだよ」
この不論理《ふろんり》な断案は、云い手が真面目《まじめ》なだけに、津田をなお失笑させた。すると今度は叔父が賛成した。
「そうだよこの上病気にでも罹った日にゃどうにもこうにもやり切れな
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