明暗
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)探《さぐ》り

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)今|現《げん》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「(諂−言)+炎」、第3水準1−87−64]
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        一

 医者は探《さぐ》りを入れた後《あと》で、手術台の上から津田《つだ》を下《おろ》した。
「やっぱり穴が腸まで続いているんでした。この前《まえ》探《さぐ》った時は、途中に瘢痕《はんこん》の隆起《りゅうき》があったので、ついそこが行《い》きどまりだとばかり思って、ああ云ったんですが、今日《きょう》疎通を好くするために、そいつをがりがり掻《か》き落して見ると、まだ奥があるんです」
「そうしてそれが腸まで続いているんですか」
「そうです。五分ぐらいだと思っていたのが約一寸ほどあるんです」
 津田の顔には苦笑の裡《うち》に淡く盛り上げられた失望の色が見えた。医者は白いだぶだぶした上着の前に両手を組み合わせたまま、ちょ
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