津田の顔を見て、ふと気がついたような調子で云った。
「由雄さんはいったい贅沢《ぜいたく》過ぎるよ」
 学校を卒業してから以来の津田は叔母に始終《しじゅう》こう云われつけていた。自分でもまたそう信じて疑わなかった。そうしてそれを大した悪い事のようにも考えていなかった。
「ええ少し贅沢です」
「服装《なり》や食物ばかりじゃないのよ。心が派出《はで》で贅沢に出来上ってるんだから困るっていうのよ。始終|御馳走《ごちそう》はないかないかって、きょろきょろそこいらを見廻してる人みたようで」
「じゃ贅沢どころかまるで乞食《こじき》じゃありませんか」
「乞食じゃないけれども、自然|真面目《まじめ》さが足りない人のように見えるのよ。人間は好い加減なところで落ちつくと、大変見っとも好いもんだがね」
 この時津田の胸を掠《かす》めて、自分の従妹《いとこ》に当る叔母の娘の影が突然通り過ぎた。その娘は二人とも既婚の人であった。四年前に片づいた長女は、その後《のち》夫に従って台湾に渡ったぎり、今でもそこに暮していた。彼の結婚と前後して、ついこの間嫁に行った次女は、式が済むとすぐ連れられて福岡へ立ってしまった。その
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