うん、云った」
「何と云った」
真事は少し羞恥《はにか》んでいた。しばらくしてから、彼はぽつりぽつり句切《くぎり》を置くような重い口調《くちょう》で答えた。
「あのね、岡本へ行くとね、何でも一《はじめ》さんの持ってるものをね、宅《うち》へ帰って来てからね、買ってくれ、買ってくれっていうから、それでいけないって」
津田はようやく気がついた。富の程度に多少等差のある二人の活計向《くらしむき》は、彼らの子供が持つ玩具《おもちゃ》の末に至るまでに、多少等差をつけさせなければならなかったのである。
「それでこいつ自動車だのキッドの靴だのって、むやみに高いものばかり強請《ねだる》んだな。みんな一《はじめ》さんの持ってるのを見て来たんだろう」
津田は揶揄《からか》い半分手を挙《あ》げて真事の背中を打とうとした。真事は跋《ばつ》の悪い真相を曝露《ばくろ》された大人《おとな》に近い表情をした。けれども大人のように言訳がましい事はまるで云わなかった。
「嘘《うそ》だよ。嘘だよ」
彼は先刻《さっき》津田に買ってもらった一円五十銭の空気銃を担《かつ》いだままどんどん自分の宅《うち》の方へ逃げ出した。彼
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