ら実行を逼《せま》られそうな様子なので、津田は生返事《なまへんじ》をしたなり話をほかへそらした。真事は戸田だの渋谷だの坂口だのと、相手の知りもしない友達の名前を勝手に並べ立てて、その友達を片端《かたっぱし》から批評し始めた。
「あの岡本って奴《やつ》、そりゃ狡猾《ずる》いんだよ。靴を三足も買ってもらってるんだもの」
話はまた靴へ戻って来た。津田はお延と関係の深いその岡本の子と、今自分の前でその子を評している真事とを心の中《うち》で比較した。
二十四
「御前《おまい》近頃岡本の所へ遊びに行くかい」
「ううん、行かない」
「また喧嘩《けんか》したな」
「ううん、喧嘩なんかしない」
「じゃなぜ行かないんだ」
「どうしてでも――」
真事《まこと》の言葉には後《あと》がありそうだった。津田はそれが知りたかった。
「あすこへ行くといろんなものをくれるだろう」
「ううん、そんなにくれない」
「じゃ御馳走《ごちそう》するだろう」
「僕こないだ岡本の所でライスカレーを食べたら、そりゃ辛《から》かったよ」
ライスカレーの辛いぐらいは、岡本へ行かない理由になりそうもなかった。
「そ
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