う説明を聞いた時、彼はまた叔父の窮策《きゅうさく》を滑稽《こっけい》的に批判したくなった。そうしてその窮策から出た現在のお手際《てぎわ》を擽《くす》ぐったいような顔をしてじろじろ眺めた。

        二十三

「真事、そりゃ好い靴だよ、お前」
「だってこんな色の靴誰も穿《は》いていないんだもの」
「色はどうでもね、お父さんが自分で染めてくれた靴なんか滅多《めった》に穿《は》けやしないよ。ありがたいと思って大事にして穿かなくっちゃいけない」
「だってみんなが尨犬《むくいぬ》の皮だ尨犬の皮だって揶揄《からか》うんだもの」
 藤井の叔父と尨犬の皮、この二つの言葉をつなげると、結果はまた新らしいおかしみになった。しかしそのおかしみは微《かす》かな哀傷を誘って、津田の胸を通り過ぎた。
「尨犬じゃないよ、小父さんが受け合ってやる。大丈夫尨犬じゃない立派な……」
 津田は立派な何といっていいかちょっと行きつまった。そこを好い加減にしておく真事ではなかった。
「立派な何さ」
「立派な――靴さ」
 津田はもし懐中が許すならば、真事《まこと》のために、望み通りキッドの編上《あみあげ》を買ってやりたい
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