。彼は突然玄関へ馬車を横付にする、そうして怒鳴《どな》り込むような大きな声を出して彼の室《へや》へ入ってくる小林の姿を眼前に髣髴《ほうふつ》した。
「何しに来た」
「何しにでもない、貴様を厭《いや》がらせに来たんだ」
「どういう理由《わけ》で」
「理由も糸瓜《へちま》もあるもんか。貴様がおれを厭《いや》がる間は、いつまで経《た》ってもどこへ行っても、ただ追《おっ》かけるんだ」
「畜生ッ」
津田は突然|拳《こぶし》を固めて小林の横《よこ》ッ面《つら》を撲《なぐ》らなければならなかった。小林は抵抗する代りに、たちまち大の字になって室《へや》の真中へ踏《ふ》ん反《ぞ》り返らなければならなかった。
「撲ったな、この野郎。さあどうでもしろ」
まるで舞台の上でなければ見られないような活劇が演ぜられなければならなかった。そうしてそれが宿中《やどじゅう》の視聴を脅《おびや》かさなければならなかった。その中には是非とも清子が交《まじ》っていなければならなかった。万事は永久に打ち砕かれなければならなかった。
事実よりも明暸《めいりょう》な想像の一幕《ひとまく》を、描くともなく頭の中に描き出した津田は
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