しまわなければならないほど静かであった。その時彼の心を卒然として襲って来たものがあった。
「これは女だ。しかし下女ではない。ことによると……」
 不意にこう感づいた彼の前に、もしやと思ったその本人が容赦なく現われた時、今しがた受けたより何十倍か強烈な驚ろきに囚《とら》われた津田の足はたちまち立《た》ち竦《すく》んだ。眼は動かなかった。
 同じ作用が、それ以上強烈に清子をその場に抑えつけたらしかった。階上の板の間まで来てそこでぴたりととまった時の彼女は、津田にとって一種の絵であった。彼は忘れる事のできない印象の一つとして、それを後々《のちのち》まで自分の心に伝えた。
 彼女が何気なく上から眼を落したのと、そこに津田を認めたのとは、同時に似て実は同時でないように見えた。少くとも津田にはそう思われた。無心《むしん》が有心《ゆうしん》に変るまでにはある時がかかった。驚ろきの時、不可思議の時、疑いの時、それらを経過した後《あと》で、彼女は始めて棒立になった。横から肩を突けば、指一本の力でも、土で作った人形を倒すよりたやすく倒せそうな姿勢で、硬くなったまま棒立に立った。
 彼女は普通の湯治客《とう
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