室《へや》へ案内された彼は、好時季に邂逅《めぐりあわ》せてくれたこの偶然に感謝した。性質から云えばむしろ人中《ひとなか》を択《えら》ぶべきはずの彼には都合があった。彼は膳《ぜん》の向うに坐《すわ》っている下女に訊《き》いた。
「昼間もこの通りかい」
「へえ」
「何だかお客はどこにもいないようじゃないか」
下女は新館とか別館とか本館とかいう名前を挙げて、津田の不審を説明した。
「そんなに広いのか。案内を知らないものは迷児《まいご》にでもなりそうだね」
彼は清子のいる見当《けんとう》を確かめなければならなかった。けれども手代に露骨な質問がかけられなかった通り、下女にも卒直な尋ね方はできなかった。
「一人で来る人は少ないだろうね、こんな所へ」
「そうでもございません」
「だが男だろう、そりゃ。まさか女一人で逗留《とうりゅう》しているなんてえのはなかろう」
「一人いらっしゃいます、今」
「へえ、病気じゃないか。そんな人は」
「そうかも知れません」
「何という人だい」
受持が違うので下女は名前を知らなかった。
「若い人かね」
「ええ、若いお美くしい方です」
「そうか、ちょっと見せて貰《もら
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