りながら流れる早瀬の上に架《か》け渡した橋の上をそろそろ通った。すると幾点の電灯がすぐ津田の眸《ひとみ》に映ったので、彼はたちまちもう来たなと思った。あるいはその光の一つが、今清子の姿を照らしているのかも知れないとさえ考えた。
「運命の宿火《しゅっか》だ。それを目標《めあて》に辿《たど》りつくよりほかに途《みち》はない」
 詩に乏しい彼は固《もと》よりこんな言葉を口にする事を知らなかった。けれどもこう形容してしかるべき気分はあった。彼は首を手代の方へ延ばした。
「着いたようじゃないか。君の家《うち》はどれだい」
「へえ、もう一丁ほど奥になります」
 ようやく馬車の通れるくらいな温泉《ゆ》の町は狭かった。おまけに不規則な故意《わざ》とらしい曲折を描いて、御者をして再び車台の上に鞭《むち》を鳴らす事を許さなかった。それでも宿へ着くまでに五六分しかかからなかった。山と谷がそれほど広いという意味で、町はそれほど狭かったのである。
 宿は手代の云った通り森閑《しんかん》としていた。夜のためばかりでもなく、家の広いためばかりでもなく、全く客の少ないためとしか受け取れないほどの静かさのうちに、自分の
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