るだけであった。彼は首を縮めて外套《がいとう》の襟《えり》を立てた。
「夜中《やちゅう》はもうだいぶお寒くなりました」
御者台《ぎょしゃだい》を背中に背負《しょ》ってる手代は、位地《いち》の関係から少しも風を受けないので、この云《い》い草《ぐさ》は何となく小賢《こざか》しく津田の耳に響いた。
道は左右に田を控えているらしく思われた。そうして道と田の境目《さかいめ》には小河の流れが時々聞こえるように感ぜられた。田は両方とも狭く細く山で仕切られているような気もした。
津田は帽子と外套の襟で隠し切れない顔の一部分だけを風に曝《さら》して、寒さに抵抗でもするように黙想の態度を手代に示した。手代もその方が便利だと見えて、強《し》いて向うから口を利《き》こうともしなかった。
すると突然津田の心が揺《うご》いた。
「お客はたくさんいるかい」
「へえありがとう、お蔭《かげ》さまで」
「何人《なんにん》ぐらい」
何人とも答えなかった手代は、かえって弁解がましい返事をした。
「ただいまはあいにく季節が季節だもんでげすから、あんまりおいでがございません。寒い時は暮からお正月へかけまして、それから夏
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