くれそうもなしと。何しろ日の短かい上へ持って来て、気が短かいと来てるんだから、安閑としちゃいられねえ。――どうです皆さん一つ降りて車を押してやろうじゃありませんか」
爺さんはこう云いながら元気よく真先に飛び降りた。残るものは苦笑しながら立ち上った。津田も独《ひと》り室内に坐《すわ》っている訳に行かなくなったので、みんなといっしょに地面の上へ降り立った。そうして黄色に染められた芝草の上に、あっけらかんと立っている婦人を後《うしろ》にして、うんうん車を押した。
「や、いけねえ、行き過ぎちゃった」
車はまた引き戻された。それからまた前へ押し出された。押し出したり引き戻したり二三度するうちに、脱線はようやく片づいた。
「また後《おく》れちまったよ、大将、お蔭《かげ》で」
「誰のお蔭でさ」
「軽便のお蔭でさ。だがこんな事でもなくっちゃ眠くっていけねえや」
「せっかく遊びに来た甲斐《かい》がないだろう」
「全くだ」
津田は後れた時間を案じながら、教えられた停車場《ステーション》で、この元気の好い老人と別れて、一人|薄暮《ゆうぐれ》の空気の中に出た。
百七十一
靄《もや》
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