この様子じゃまた軽便の路《みち》が壊れやしないかね」
彼は仕方なしに津田の耳へも入るような大きな声を出してこう云った。
「なに大丈夫だよ。なんぼ名前が軽便だって、そう軽便に壊れられた日にゃ乗るものが災難だあね」
これが相手の答であった。相手というのは羅紗《らしゃ》の道行《みちゆき》を着た六十恰好《ろくじゅうがっこう》の爺《じい》さんであった。頭には唐物屋《とうぶつや》を探《さが》しても見当りそうもない変な鍔《つば》なしの帽子を被《かぶ》っていた。煙草入《たばこいれ》だの、唐桟《とうざん》の小片《こぎれ》だの、古代更紗《こだいさらさ》だの、そんなものを器用にきちんと並べ立てて見世を張る袋物屋《ふくろものや》へでも行って、わざわざ注文しなければ、とうてい頭へ載せる事のできそうもないその帽子の主人は、彼の言葉|遣《づか》いで東京生れの証拠を充分に挙げていた。津田は服装に似合わない思いのほか濶達《かったつ》なこの爺さんの元気に驚ろくと同時に、どっちかというと、ベランメーに接近した彼の口の利き方にも意外を呼んだ。
この挨拶《あいさつ》のうちに偶然使用された軽便という語は、津田にとってたしか
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