の糸が急に数を揃《そろ》えて、見渡す限の空間を一度に充《み》たして来る様子が、比較的展望に便利な汽車の窓から見ると、一層|凄《すさ》まじく感ぜられた。
雨の上には濃い雲があった。雨の横にも限界の遮《さえ》ぎられない限りは雲があった。雲と雨との隙間《すきま》なく連続した広い空間が、津田の視覚をいっぱいに冒《おか》した時、彼は荒涼《こうりょう》なる車外の景色と、その反対に心持よく設備の行き届いた車内の愉快とを思い較《くら》べた。身体《からだ》を安逸の境に置くという事を文明人の特権のように考えている彼は、この雨を衝《つ》いて外部《そと》へ出なければならない午後の心持を想像しながら、独《ひと》り肩を竦《すく》めた。すると隣りに腰をかけて、ぽつりぽつりと窓硝子《まどガラス》を打つたびに、点滴の珠《たま》を表面に残して砕けて行く雨の糸を、ぼんやり眺めていた四十恰好《しじゅうがっこう》の男が少し上半身を前へ屈《かが》めて、向側《むこうがわ》に胡坐《あぐら》を掻《か》いている伴侶《つれ》に話しかけた。しかし雨の音と汽車の音が重なり合うので、彼の言葉は一度で相手に通じなかった。
「ひどく降って来たね。
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