びた》だしいものだ。そんなら立つ前にもう一遍こっちから暇乞《いとまごい》に行くよ、いいかい」
「もうたくさんだ、来てくれなくっても」
「いや行く。でないと何だか気がすまないから」
「勝手にしろ。しかし僕はいないよ、来ても。明日《あした》から旅行するんだから」
「旅行? どこへ」
「少し静養の必要があるんでね」
「転地か、洒落《しゃれ》てるな」
「僕に云わせると、これも余裕の賜物《たまもの》だ。僕は君と違って飽《あ》くまでもこの余裕に感謝しなければならないんだ」
「飽くまでも僕の注意を無意味にして見せるという気なんだね」
「正直のところを云えば、まあそこいらだろうよ」
「よろしい、どっちが勝つかまあ見ていろ。小林に啓発《けいはつ》されるよりも、事実その物に戒飭《かいしょく》される方が、遥《はる》かに覿面《てきめん》で切実でいいだろう」
 これが別れる時二人の間に起った問答であった。しかしそれは宵《よい》から持ち越した悪感情、津田が小林に対して日暮以来貯蔵して来た悪感情、の発現に過ぎなかった。これで幾分か溜飲《りゅういん》が下りたような気のした津田には、相手の口から出た最後の言葉などを考え
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