だから銀行の整理のつくまで泊りに来て留守番《るすばん》をしてくれ、小説が書きたければ自由に書くがいい、図書館へ行くなら弁当を持って行くがいい、午後は画《え》を習いに行くがいい。今に銀行を東京へ持って来ると外国語学校へ入れてやる、家《うち》の始末は心配するな、転居の金は出してやる。――僕はこんなありがたい条件に誘惑されたのです。もっとも一から十まで当《あて》にした訳でもないんですが、その何割かは本当に違いないと思い込んだのです。ところが来て見ると、本当は一つもないんです、頭から尻《しり》まで嘘の皮なんです。叔父は東京にいる方が多いばかりか、僕は書生代りに朝から晩まで使い歩きをさせられるだけなのです。叔父は僕の事を「宅《うち》の書生」といいます、しかも客の前でです、僕のいる前でです。こんな訳で酒一合の使から縁側の拭き掃除までみんな僕の役になってしまうのです。金はまだ一銭も貰ったことがありません。僕の穿《は》いていた一円の下駄が割れたら十二銭のやつを買って穿かせました。叔父は明日《あした》金をやると云って、僕の家族を姉の所へ転居させたのですが、越してしまったら、金の事は噫《おくび》にも出さな
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