のが描《か》いてあるんだ。それを買おうという望手《のぞみて》の所へ価値《ねだん》の相談に行った帰りがけに、原君はここへ寄ったんだから、旨《うま》い機会じゃないか。是非買いたまえ。芸術家の足元へ付け込んで、むやみに価切《ねぎ》り倒すなんて失敬な奴へは売らないが好いというのが僕の意見なんだ。その代りきっと買手を周旋してやるから、帰りにここへ寄るがいいと、先刻《さっき》あすこの角で約束しておいたんだ、実を云うと。だから一つ買ってやるさ、訳ゃないやね」
「他《ひと》に絵も何にも見せないうちから、勝手にそんな約束をしたってしようがないじゃないか」
「絵は見せるよ。――君今日持って帰らなかったのか」
「もう少し待ってくれっていうから置いて来た」
「馬鹿だな、君は。しまいにロハで捲《ま》き上げられてしまうだけだぜ」
 津田はこの問答を聴いてほっと一息|吐《つ》いた。

        百六十三

 二人は津田を差し置いて、しきりに絵画の話をした。時々耳にする三角派《さんかくは》とか未来派《みらいは》とかいう奇怪な名称のほかに、彼は今までかつて聴《き》いた事のないような片仮名をいくつとなく聴かされた。
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