し驚ろかされた。
「誰が来るんだ」
「誰でもない、僕よりもまだ余裕の乏しい人が来るんだ」
小林は裸のまま紙幣をしまい込んだ自分の隠袋《ポケット》を、わざとらしく軽く叩《たた》いた。
「君から僕にこれを伝えた余裕は、再びこれを君に返せとは云わないよ。僕よりもっと余裕の足りない方へ順送《じゅんおく》りに送れと命令するんだよ。余裕は水のようなものさ。高い方から低い方へは流れるが、下から上へは逆行《ぎゃっこう》しないよ」
津田はほぼ小林の言葉を、意解《いかい》する事ができた。しかし事解《じかい》する事はできなかった。したがって半醒半酔《はんせいはんすい》のような落ちつきのない状態に陥《おちい》った。そこへ小林の次の挨拶《あいさつ》がどさどさと侵入して来た。
「僕は余裕の前に頭を下げるよ、僕の矛盾を承認するよ、君の詭弁《きべん》を首肯《しゅこう》するよ。何でも構わないよ。礼を云うよ、感謝するよ」
彼は突然ぽたぽたと涙を落し始めた。この急劇な変化が、少し驚ろいている津田を一層不安にした。せんだっての晩|手古摺《てこず》らされた酒場《バー》の光景を思い出さざるを得なくなった彼は、眉《まゆ》をひ
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