だ。答えて見ろ」
「君さ。君が僕にくれたのさ」
「いや僕じゃないよ」
「何を云うんだな禅坊主の寝言《ねごと》見たいな事を。じゃ誰だい」
「誰でもない、余裕さ。君の先刻《さっき》から攻撃している余裕がくれたんだ。だから黙ってそれを受け取った君は、口でむちゃくちゃに余裕をぶちのめしながら、その実余裕の前にもう頭を下げているんだ。矛盾じゃないか」
 小林は眼をぱちぱちさせた後《あと》でこう云った。
「なるほどな、そう云えばそんなものか知ら。しかし何だかおかしいよ。実際僕はちっともその余裕なるものの前に、頭を下げてる気がしないんだもの」
「じゃ返してくれ」
 津田は小林の鼻の先へ手を出した。小林は女のように柔らかそうなその掌《てのひら》を見た。
「いや返さない。余裕は僕に返せと云わないんだ」
 津田は笑いながら手を引き込めた。
「それみろ」
「何がそれみろだ。余裕は僕に返せと云わないという意味が君にはよく解らないと見えるね。気の毒なる貴公子《きこうし》よだ」
 小林はこう云いながら、横を向いて戸口の方を見つつ、また一句を付け加えた。
「もう来そうなものだな」
 彼の様子をよく見守った津田は、少
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