そめると共に、相手を利用するのは今だという事に気がついた。
「僕が何で感謝なんぞ予期するものかね、君に対して。君こそ昔を忘れているんだよ。僕の方が昔のままでしている事を、君はみんな逆《さか》に解釈するから、交際がますます面倒になるんじゃないか。例《たと》えばだね、君がこの間僕の留守へ外套《がいとう》を取りに行って、そのついでに何か妻《さい》に云ったという事も――」
 津田はこれだけ云って暗《あん》に相手の様子を窺《うかが》った。しかし小林が下を向いているので、彼はまるでその心持の転化作用を忖度《そんたく》する事ができなかった。
「何も好んで友達の夫婦仲を割《さ》くような悪戯《いたずら》をしなくってもいい訳じゃないか」
「僕は君に関して何も云った覚《おぼえ》はないよ」
「しかし先刻《さっき》……」
「先刻は笑談《じょうだん》さ。君が冷嘲《ひやか》すから僕も冷嘲したんだ」
「どっちが冷嘲し出したんだか知らないが、そりゃどうでもいいよ。ただ本当のところを僕に云ってくれたって好さそうなものだがね」
「だから云ってるよ。何にも君に関して云った覚はないと何遍も繰り返して云ってるよ。細君を訊《き》き
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