た人は、それを合図のように立ち上った。残る一人《いちにん》も給仕を呼んで勘定を払った。
「とうとう立っちまった。もう少し待ってると面白いところへ来るんだがな、惜しい事に」
 小林は出て行く女伴の後影《うしろかげ》を見送った。
「おやおやもう一人も立つのか。じゃ仕方がない、相手はやっぱり君だけだ」
 彼は再び津田の方へ向き直った。
「問題はそこだよ、君。僕が仏蘭西《フランス》料理と英吉利《イギリス》料理を食い分ける事ができずに、糞《くそ》と味噌《みそ》をいっしょにして自慢すると、君は相手にしない。たかが口腹《こうふく》の問題だという顔をして高を括《くく》っている。しかし内容は一つものだぜ、君。この味覚が発達しないのも、芸者と貴婦人を混同するのも」
 津田はそれがどうしたと云わぬばかりの眼を翻《ひる》がえして小林を見た。
「だから結論も一つ所へ帰着しなければならないというのさ。僕は味覚の上において、君に軽蔑《けいべつ》されながら、君より幸福だと主張するごとく、婦人を識別する上においても、君に軽蔑されながら、君より自由な境遇に立っていると断言して憚《はば》からないのだ。つまり、あれは芸者だ、
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