「いや解らない。軽蔑《けいべつ》の結果はあるいは解ってるかも知れないが、軽蔑の意味は君にも君の細君にもまだ通じていないよ。だから君の今夕《こんゆう》の好意に対して、僕はまた留別《りゅうべつ》のために、それを説明して行こうてんだ。どうだい」
「よかろう」
「よくないたって、僕のような一文《いちもん》なしじゃほかに何も置いて行くものがないんだから仕方がなかろう」
「だからいいよ」
「黙って聴くかい。聴くなら云うがね。僕は今君の御馳走《ごちそう》になって、こうしてぱくぱく食ってる仏蘭西《フランス》料理も、この間の晩君を御招待申して叱られたあの汚ならしい酒場《バー》の酒も、どっちも無差別に旨《うま》いくらい味覚の発達しない男なんだ。そこを君は軽蔑するだろう。しかるに僕はかえってそこを自慢にして、軽蔑する君を逆に軽蔑しているんだ。いいかね、その意味が君に解ったかね。考えて見たまえ、君と僕がこの点においてどっちが窮屈で、どっちが自由だか。どっちが幸福で、どっちが束縛を余計感じているか。どっちが太平でどっちが動揺しているか。僕から見ると、君の腰は始終《しじゅう》ぐらついてるよ。度胸が坐《すわ》ってな
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