いよ。厭《いや》なものをどこまでも避けたがって、自分の好きなものをむやみに追《おっ》かけたがってるよ。そりゃなぜだ。なぜでもない、なまじいに自由が利《き》くためさ。贅沢《ぜいたく》をいう余地があるからさ。僕のように窮地に突き落されて、どうでも勝手にしやがれという気分になれないからさ」
 津田はてんから相手を見縊《みくび》っていた。けれども事実を認めない訳には行かなかった。小林はたしかに彼よりずうずうしく出来上っていた。

        百五十八

 しかし小林の説法にはまだ後があった。津田の様子を見澄ました彼は突然思いがけない所へ舞い戻って来た。それは会見の最初ちょっと二人の間に点綴《てんてつ》されながら、前後の勢《いきおい》ですぐどこかへ流されてしまった問題にほかならなかった。
「僕の意味はもう君に通じている。しかし君はまだなるほどという心持になれないようだ。矛盾だね。僕はその訳を知ってるよ。第一に相手が身分も地位も財産も一定の職業もない僕だという事が、聡明《そうめい》な君を煩《わずら》わしているんだ。もしこれが吉川夫人か誰かの口から出るなら、それがもっとずっとつまらない説でも、君
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