そりゃ……。細君は何と云ったね」
 津田は黙って懐《ふところ》へ手を入れた。小林はその所作《しょさ》を眺めながら、わざとそれを止《や》めさせるように追加した。
「ははあ。弁護の必要があったんだな。どうも変だと思ったら」
 津田は懐へ入れた手を、元の通り外へ出した。「お延の返事はここにある」といって、綺麗《きれい》に持って来た金を彼に渡すつもりでいた彼は躊躇《ちゅうちょ》した。その代り話頭《わとう》を前へ押し戻した。
「やはり人間は境遇次第だね」
「僕は余裕次第だというつもりだ」
 津田は逆《さか》らわなかった。
「そうさ余裕次第とも云えるね」
「僕は生れてから今日《きょう》までぎりぎり決着の生活をして来たんだ。まるで余裕というものを知らず生きて来た僕が、贅沢三昧《ぜいたくざんまい》わがまま三昧に育った人とどう違うと君は思う」
 津田は薄笑いをした。小林は真面目《まじめ》であった。
「考えるまでもなくここにいるじゃないか。君と僕さ。二人を見較《みくら》べればすぐ解るだろう、余裕と切迫で代表された生活の結果は」
 津田は心の中《うち》でその幾分を点頭《うなず》いた。けれども今さらそんな不平
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