彼の視覚を冒《おか》した。彼は自働車の過ぎ去ると同時に踵《きびす》を回《めぐ》らした。そうして二人の立っている舗道《ほどう》を避けるように、わざと反対の方向へ歩き出した。
彼には何の目的もなかった。はなやかに電灯で照らされた店を一軒ごとに見て歩く興味は、ただ都会的で美くしいというだけに過ぎなかった。商買が違うにつれて品物が変化する以外に、何らの複雑な趣《おもむき》は見出《みいだ》されなかった。それにもかかわらず彼は到《いた》る処に視覚の満足を味わった。しまいに或|唐物屋《とうぶつや》の店先に飾ってあるハイカラな襟飾《ネクタイ》を見た時に、彼はとうとうその家《うち》の中へ入って、自分の欲しいと思うものを手に取って、ひねくり廻したりなどした。
もうよかろうという時分に、彼は再び取って返した。舗道の上に立っていた二人の影ははたしてどこかへ行ってしまった。彼は少し歩調を早めた。約束の家の窓からは暖かそうな光が往来へ射していた。煉瓦作《れんがづく》りで窓が高いのと、模様のある玉子色の布《きぬ》に遮《さえ》ぎられて、間接に夜《よ》の中へ光線が放射されるので、通《とお》り際《ぎわ》に見上げた津田
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