ず小林は真面《まとも》にこっちを向いていなかった。彼は津田のまだ見知らない青年と立談《たちばなし》をしていた。青年の顔は三分の二ほど、小林のは三分の一ほど、津田の方角から見えるだけなので、彼はほぼ露見の恐れなしに、自分の足の停《と》まった所から、二人の模様を注意して観察する事ができた。二人はけっして余所見《よそみ》をしなかった。顔と顔を向き合せたまま、いつまでも同じ姿勢を崩《くず》さない彼らの体《てい》が、ありありと津田の眼に映るにつれて、真面目《まじめ》な用談の、互いの間に取り換わされている事は明暸《めいりょう》に解《わか》った。
 二人の後《うしろ》には壁があった。あいにく横側に窓が付いていないので、強い光はどこからも射さなかった。ところへ南から来た自働車が、大きな音を立てて四つ角を曲ろうとした。その時二人は自働車の前側に装置してある巨大な灯光を満身に浴びて立った。津田は始めて青年の容貌《ようぼう》を明かに認める事ができた。蒼白《あおじろ》い血色は、帽子の下から左右に垂れている、幾カ月となく刈《か》り込まない※[#「參+毛」、第3水準1−86−45]々《さんさん》たる髪の毛と共に、
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